シャンパンがシャンパンたる由縁

時に高級時計、ジュエリー、ハイファッションなどと同列に扱われるChampagne(シャンパン)。なかには、あのHERMES(エルメス)も手掛けたデザイナー、Jean-Paul GAULTIER(ジャン=ポール・ゴルチエ)がボトルデザインを行ったブランドもあるほど。

では、なぜシャンパンは「特別な存在」なのでしょうか。なぜ「高級」なのでしょうか。その秘密に迫るため、今回はシャンパンをめぐる旅へと出かけてみましょう。

生産地を知る

シャンパンが作られているのは、フランスのChampagne(シャンパーニュ)地方。パリから北東に約130km先に位置するReims(ランス)をはじめ、Épernay(エペルネ)、Troyes(トロワ)などの都市から形成されています。長らくはブドウ栽培の北限であり、ワイン作りには厳しい環境とされてきました(温暖化により栽培が可能な土地は年々広がっており、現在はスウェーデンでもワインが作られています)。

ちなみに、ランスから北西へ車で1時間半ほどの距離には、ベルギーのトラストビールで有名なChimay(シメイ)があります。

Stunning vineyard in South Australia

シャンパンの歴史をたどる

シャンパーニュ地方では、紀元前より古代ローマ人がブドウを栽培していたことがわかっています。時代が下り11世紀になると、ローマ皇帝Urbanus II(ウルバヌス2世)がこの地のワインを愛飲し、彼への謁見の際には“おみやげ”として不可欠だったというエピソードも記録されています。

この地で積極的にワインが生産されはじめたのは13世紀になってから。毛織物の取引の「おまけ」として扱われたことで、一気に産業として花開きました。しかし上述のように、この地はブドウ作りに適さない土地。その品質は惨憺(さんたん)たるものでした。当時作られていたのは赤ワインでしたが、色は安定せず、ニワトコの汁を混ぜてなんとか赤みを出していました。発酵に伴う発泡もコントロールできず、瓶の爆発事故が耐えなかったようです。

17世紀、材料のブドウの選択技術や発酵技術の改良がようやく進み、発泡性をある程度調整できるようになりました。イギリスやフランスで割れにくい瓶が次々と開発されたことも相まって、シャンパーニュ地方のワインはより広範囲で取引されるようになります。この頃には、ロシアのピョートル大帝がこよなく愛したとの記録が残っています。

なお、今や高級シャンパンの代名詞ともなっているオーヴィレ修道院の修道士「ドン・ペリニヨン」ですが、彼をシャンパンの生みの親とする言説は間違いです。確かに彼は、発泡性ワインの生産に深く関わっていました。しかし、「シャンパン」を生み出したわけではなく、あくまでワインの改良を行っていたにすぎないというのが大方の見解です。

シャンパンの製法、生産者

現在のシャンパンを特徴付けているのが「method champenoise(メソード・シャンプノワーズ)」と呼ばれる製法です。シャンパンのもととなるワインにショ糖と酵母を入れることで、強制的に瓶内で二次発酵を促します。

この独特の技術には、これまでにも触れてきたようにシャンパーニュのブドウの不安定な品質が関わっています。ブドウに十分な糖度がないとアルコール分が不足し、保存中に劣化が起こります。逆に糖度が高いと発酵が進み、気が抜けたドロドロの液体になってしまいます。これをコントロールすべく、このメソード・シャンプノワーズが発明されたのです。二次発酵は炭酸ガスの安定にも適い、シャンパンらしい独特の発泡感を作り上げています。

材料には、白ブドウ、黒ブドウの両方が使われます。品種は主にピノ・ノワール、ピノ・ムニエ、シャルドネの3種。味や色味、香りはこのバランスによって自由に調整されています。

生産者も主に3つに分かれます。覚えやすいですね。まずは、モエ・エ・シャンドンやクリュッグといった、ワインの流通にも関わる「ワイン商(NM)」。そして協同組合(CM)。最後に個別ブドウ園(RM)となっています。

高級シャンパンが「高級」たる理由

ここまで見てきたなら、シャンパンが特別扱いされてきた理由もおわかりでしょう。そう、地理的な制約を乗り越えて生まれた「独自性」を人びとは愛でてきたのです。

それにしても、どの年に購入してもシャンパンの味が安定しているのはどうしてでしょう。その答えは、複数年のベースワインをブレンドする製法にあります。一般的なシャンパンがNV(ノン・ヴィンテージ)と呼ばれるのもそのため。赤ワインが収穫年やTerroir(テロワール)を大事にするのと極めて対照的ですが、これもシャンパーニュ地方のブドウの品質の不安定さが生んだものです。

一方、天候がよく原材料のブドウの出来が最高に良い年には、単一年の材料でシャンパンが作られます。これはMillésimé(ミレジメ、ヴィンテージ)と呼ばれ、そのメゾンで一番価値のあるもの、Prestige Cuvée(プレステージ・キュヴェ)として扱われます。シャンパンの「手間のかかる手法」や「ブランド」のほかにも、こうした「希少性」が高級シャンパンを生み出しているのです。